「結論はなんだ?」と急かされる朝
「Do you agree?」
日本時間の朝8時、ニューヨークとのオンライン会議。
画面越しのクライアントが、苛立ちを隠さずに問いかけてきます。
「条件次第では賛成ですが、リスクを考えると……」
そう答えようとした瞬間、相手の声が被さります。
「So, is it Yes or No?」
言葉に詰まり、口から出るのは「Ah…」という曖昧な音だけ。
その一瞬で、あなたの印象は「思慮深い担当者」から「決断できない人」へと急降下。
なぜ私たちは、Yes / No を即答しないと言われるのでしょうか。
語学力の問題? 優柔不断な性格?
それもゼロではないかもしれません。
でも、大きな背景として理解しておきたいのが、
私たちが使っている「日本語」というOSの仕様です。
日本語は、もともとの文の構造が「即答」に向かない言語なのです。
これを仮に「結論先送り問題」と呼ぶことにしましょう。
これから、グローバル環境で生き抜くために、
日本語OSで思考しつつも英語側に合わせて話すためのコツを考えてみます。
「結論は最後」という日本語OSの宿命
決定的な違いは、結論(動詞)が文章中のどこに来るのか、という点です。
英語(SVO=主語⇒動詞⇒目的語)は、最初の一言で立場がはっきりします。
たとえば「I disagree(反対です)」のように。
聞き手は最初の1秒で、相手のスタンスを理解できます。
一方、日本語(SOV=主語⇒目的語⇒動詞)はそうではありません。
「私は、今回の提案について、コストは魅力的ですが納期を考えると……賛成しかねます。」
最後まで聞かないと、YesなのかNoなのか、
それとも「検討したい」のかが分かりません。
これは、日本語話者にとっては自然な話し方です。
でも、英語を前提に思考する相手にとっては、ストレスになりがちです。
これが「結論先送り問題」を引き起こします。
彼らの頭の中は「最初に結論、あとから理由」という前提で動いているため、
結論が見えないまま説明だけが続くと脳の処理が詰まり、
思わず「So what?(で、どうなの?)」と言いたくなってしまうのです。

日本語は「走りながら着地点を変えられる」可変式システム
では、日本語OSのSOVは日本人の思考や発言にどんな影響を与えているのでしょうか。
たとえば、自分の考え・結論は大体決まっていても、次のように振る舞うかもしれません。
話しながらリアルタイムで相手の表情や声のトーンをうかがう。
相手が眉をひそめたら、「……再考が必要かもしれません」と慎重な言い方に着地する。
逆に相手が頷いていれば、「……では進めましょう」と前向きに締めくくる。
日本語は、いわば「走りながら着地点を変えられる」可変システムです。
つまり、話している途中で相手の反応を見ながら、
結論を微調整できる言語なのです。
国内ではこれは「空気を読み、人間関係を壊さない」ようにするための武器になりますが、
「結論ファースト」のグローバルな舞台では、「責任回避?」「優柔不断?」という誤解につながりかねません。
相手は「あなたの意見」を聞きたいのに、
あなたは「相手の顔色」を見て結論を決めようとしている。
そう見えてしまうことが、不信感を生み出す原因となりかねないのです。
グローバル仕様へ、最初に「結論のラベル」を貼る意識
ではどうすればよいでしょうか。
もちろん、日本語OSを捨てる必要はありません。
意識的に「出力順序」を変えて、最初に結論を相手に渡すようにするだけです。
脳内では、日本語の論理のままでかまいません。
ただ、言葉として発するときに、本来は最後に来るはずの「結論」を最初に持ってくるのです。
いわば、「日本語OS」の中に「グローバル(ローコンテクスト)モード」を育て、
外国人と話すときにはそちらにスイッチを切り替えるイメージ。
そのスイッチを切り替えるときのフレーズは、たとえばこうです。
「My conclusion is Yes, provided that…
(結論はイエスです。ただし、こうした条件付きで…)」
最初に「Yes/No」というラベルをはっきり示し、
そのあとで「provided that…」と、こちらの考えをゆっくり説明する。
順番を入れ替えるだけで、相手は「なるほど、現時点の結論はこうなんだな」と安心し、
続く条件や懸念についても、前向きな情報として受け取りやすくなります。

どうしても即答できず、考える時間が欲しいときは、それ自体を言葉にしましょう。
「Let me think for a moment.(少し考えさせてください)」
これだけで、沈黙は「フリーズ」から「熟考の時間」へと変わります。
明日の会議では、意識して「グローバルモード」に切り替える

「結論先送り問題」が生じるのは、あなたに決断力がないからとは限りません。
相手の表情や空気を細かく読み取り、それに合わせて言い方を調整できるという、
繊細な日本語OSの機能に慣れているからです。
ただ、その機能は、海を越えた瞬間にノイズとして働きます。
明日の会議では、その「日本語モード」を少しだけオフにして「グローバルモード」に切り替え、
できるだけ「結論」を先に述べてみてください。
「My conclusion is…」
いわば「結論ファースト」。
そのボールを受け取った相手の表情が、思った以上に晴れやかになるかもしれません。
それは、あなたが日本語OSのモードを意識的に切り替え、異文化の溝に橋を架けた瞬間なのです。
参考文献・出典一覧
- 「Neural differences in processing of case particles in Japanese: an fMRI study」Brain and Behavior、2014年3月(2025年11月29日閲覧)
- 「Neural underpinning of Japanese particle processing in non-native speakers」Scientific Reports、2022年11月5日(2025年11月29日閲覧)
- 「Syntactic structures in motion: investigating word order variations in verb-final (Korean) and verb-initial (Tongan) languages」Frontiers in Psychology、2024年4月24日(2025年11月29日閲覧)
- 「起承転結」Wikipedia(2025年11月29日閲覧)
